風林火山 (新潮文庫)

この本のスタートは、山本勘助が武田家に仕官するところから始まるので、それ以前の父・武田信虎が、狂乱の日々を送り、民に恨まれていたため息子・信玄が父を追放して甲斐の国の主になるところは、書かれていませんので、新田次郎の「武田信玄」を読むとくわしく書いています。この小説の信玄の側室であり、諏訪頼重の娘(諏訪御料人)を「由布姫」と呼んでいますが、(作者井上靖がこの本を由布院で執筆したため)新田次郎は、「湖衣姫」と呼んでいます。由布姫と山本勘助と信玄と勝頼の4人がこの小説のメインです。一般的に言われているのは、信玄は、正室(三条方)とは、仲が悪く、側室の由布姫と勝頼を溺愛し、武田家嫡男の義信を廃嫡させた(義信事件)ため、勝頼が家督を継ぐことになったという事です。ただ、名前に「信」を与えておらず、諏訪家を継がせるつもりだったようです。実際、勝頼は、敵将(諏訪頼重)の娘(由布姫)が生んだ子であり、信玄も後継者として認めていないため、一族とみなされず家中の支持をえられなかったようです。新田次郎の「武田信玄」は、武田信玄の父の追放から始まり西上作戦の途中、病死するまで描いていて、単行本四冊あり長編です。一方この本は一冊で、山本勘助を中心にコンパクトに描いている点が大きく異なります。山本勘助は、由布姫に対する思慕の情と勝頼に対する愛情により時期当主を望んで川中島の戦いで死んでいきます。新田次郎の作品とは、違う感動がこの作品にはあります。やはり、井上靖の本らしく人物のまとを絞り愛情込めて描いています。すばらしいと思いました。