王室と不敬罪プミポン国王とタイの混迷 (文春新書)

人懐こくてゴハンがおいしいタイ。そんなタイ人に愛されてきた「プミポン国王」こそ、実は触れてはならぬタブーだった…。本書は、外国人記者としてタイに駐在した著者がそのタブーに正面から切り込んだノンフィクションだ。かつて旅行でタイを訪れた時、街のあちこちに飾られたプミポン国王の写真を見て「なぜ国王がこんなに人気なのか」と不思議に思いつつも、微笑ましく思ったことがある。しかし本書を読むと、その「皆に愛される国王」のイメージの裏側にある何かに、たびたびゾクリと寒気を覚えた。日本ではもはや耳にすることがない「不敬罪」で投獄された若い母親を待つ幼い姉妹の話に始まり、軍によるクーデターに国王がお墨付きを与えてきたこと▽民主主義の形式を取ってはいるが、実際は国王を頂点とした階級社会であること▽「不敬」が権力者の政治的な手段に使われてきたこと――などが、分かりやすく書かれていた。新聞記者が書いたからだと思うが、各地で丁寧に積み重ねたインタビューを根拠にした展開に説得力がある。加えて、「占い師」が政治に深くかかわるタイ政界の実情や、女子高生の反軍政活動家のエピソードなどもここで初めて知る「へえ、なるほど」だった。日本では、天皇陛下の退位を来年に控え、秋篠宮殿下が大嘗祭の費用について問題提起するなど「象徴」天皇制が話題になることも多い。本書のキーワードとなっている「タイ式民主主義」は、日本の〝民主主義〟は本物の民主主義なのか？排外主義が広がる世界で民主主義は機能しているのか？と考えるキッカケになった。ちなみに私は、乳児の世話で家ではまとまった時間が取れず、通勤電車などで５分ずつ読む、という細切れの読み方をしたが、予備知識がない人でも読める構成で挫折しなかった。時間がない人にもオススメです。