オセロウ (岩波文庫)

オセロウとその美しい妻デズデモウナの間に、悪党イアーゴウが登場する。この男はオセロウのもとでながらく旗手を勤めた軍人だが、なぜか主人のオセロウに深い恨みを抱いていて、とりわけオセロウとデズデモウナの結びつきに陰惨な嫉妬を燃やしている。やがて、このイアーゴウの恐るべき奸計にのせられ、オセロウは急速にデズデモウナの貞節に疑いを抱き、無惨な疑心暗鬼に苦しんだあげく、ついにわれとわが手で妻を絞め殺す、という悲惨な結末におちいって行く。おそらくイアーゴウは誰かを熱烈に愛する能力が欠落している人物と思われる。愛の感情に対して、不思議な軽蔑を抱く人物として描かれているからだ。その自分に欠落している能力を激しくもっているオセロウに嫉妬したのではないだろうか。それにしても劇の主導権を握り、積極的に事をしかけていくのは、イアーゴウなので芝居の本当の主人公は誰なのか？という奇妙な印象を受ける作品である。